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2025年4月15日〜21日の治験業界ニュース
最新動向と市場トレンドの分析
CRO業界の主なトピック
今週、CRO(開発業務受託機関)業界では、大型の資本提携や買収が相次ぎました。グローバル市場では治験支援ニーズの拡大に伴い業界再編が進んでおり、国内外でCRO各社の戦略的動きが目立ちます。
出来事・提携内容 | 概要・背景 | 業界への影響 |
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シミックHDとBlackstoneの資本提携 | 米投資ファンド大手ブラックストーンが、国内CRO大手シミックホールディングス傘下のCRO事業株式60%取得で合意(5月1日付で実行予定)。ブラックストーンは世界最大級のライフサイエンスファンドを有し、約150品目の上市を支援した実績を持つ。 | 日本のCRO市場に海外資本が参入することで国際連携が強化され、高品質かつ効率的な開発支援サービスへの期待が高まります。国内創薬力低下や市場縮小が課題とされる中、外資との協業で開発エコシステムを強化し変革期を乗り切るモデルケースになると注目されています。 |
米BayPine社によるCenExel買収 | 4月15日、米プライベートエクイティのBayPine社が、治験施設ネットワーク大手CROのCenExel社の株式過半数を取得すると発表しました。BayPineはCenExelのデジタル基盤強化やAIツール活用による患者リクルート効率化などを掲げ、同社を次世代型のデジタル対応CROへ進化させる計画です。 | 世界的にCRO業界への投資・買収熱が高まっており、BayPineの動きはその一例です。臨床試験のデジタル化・効率化競争が加速する中、資本力を背景に技術導入を進めるCROが増えています。CenExelのケースは、サイトネットワーク強化とテクノロジー活用で治験の迅速化を図る潮流を示しています。 |
欧州1Q Health社によるVivaCell買収 | 1Q Health Group(欧州のCDMO企業)は4月9日、ドイツのCROであるVivaCell Biotechnologyを買収すると発表しました。VivaCell社は20年以上にわたりin vitro・in vivo研究受託に実績があり、化粧品や医薬品、天然物の有効性評価を提供しています。 | 地域市場でも中堅CROの統合が進んでおり、欧州におけるサービス拡大と専門領域の補完が図られています。1Q Healthは2024年にも別企業を取り込んでおり、連続的なM&Aでプラットフォーム強化を推進中です。 |
2024年に約600億ドル規模だったCRO市場は2034年までに2倍の約1,182億ドルに達すると予測されており、各社が規模拡大や技術力強化によって受託機会を取り込もうとしている状況です。
グローバルCRO市場規模予測(2024-2034)
国内製薬企業の治験・開発動向
日本の製薬各社も今週、治験や開発方針に関する重要な進展を発表しました。革新的治療法への挑戦や組織改革、開発アウトソーシングの戦略が見られ、国内創薬エコシステムに影響を与えています。
住友ファーマ(大日本住友製薬)
再生医療 パーキンソン病
iPS細胞を用いたパーキンソン病治療の臨床試験で成果が報告されました。京都大学と共同で進める治験にて、患者7人の脳にiPS由来神経細胞を移植し安全性を確認、4人で症状の改善を確認したと4月17日に公表されています。
同社はこの結果を受け、2025年度中にも承認申請を目指す方針で、実現すれば世界初のiPS細胞治療薬の承認例となります。
この画期的成果に市場も反応し、根本治療への期待から同社株はストップ高を記録するなど将来的な収益貢献への期待が高まりました。
武田薬品工業
希少疾患 血液がん 国際共同開発
グローバル開発を進める武田は、外部提携を通じたパイプライン強化が成果を上げています。希少疾患分野で米バイオ企業と共同開発中の血液がん治療薬(Hepcidin模倣ペプチドのRusfertide)について、フェーズIII試験で77%の患者が治療による寛解を達成し、対照群の33%を大きく上回る有効性が示されました。
この試験結果によりパートナー企業であるProtagonist社へ武田から2,500万ドルのマイルストーン支払いも発生し、承認申請に向けた準備が進みます。
アステラス製薬
組織再編 開発効率化
アステラスは4月1日付で経営体制の大規模な変更(組織再編)を実施しました。研究の初期段階から製品の上市まで創薬プロセスを一気通貫で迅速化・効率化することを目的に、従来の組織を見直して開発体制を再編しています。
具体的には、研究開発と事業化の橋渡しを強化し、R&Dから市場導入までの時間短縮を図る組織づくりを進める方針です。
この動きの背景には、大型案件(例えば同社が注力していた遺伝子治療薬で治験中断が続く案件等)で開発遅延の課題が顕在化したこともあり、組織横断で課題解決する体制づくりが急務となった事情があります。
国内製薬企業の治験トピック別割合(2025年4月)
規制当局(PMDA・厚労省)の新たな動き
日本の規制当局からは、治験・承認に関する制度整備やガイダンス更新のニュースが出ています。治験環境を改善し新薬開発を促進するための取り組みや、新薬承認に関する進展がみられました。
GCP省令の改正とガイダンス公開
PMDAは4月17日付で、医薬品の臨床試験実施の基準に関する省令(GCP省令)の改正と関連ガイダンスを公開しました。これは昨年成立した国立健康危機管理研究機構法の施行に伴う制度整備の一環で、治験の実施基準を最新の国際基準や国内法制度に合わせて見直すものです。
具体的には、医薬品GCP省令および再生医療等製品GCP省令の一部改正事項が公布されており、治験手続きの効率化や質の確保に関する新たな指針が示されています。
背景にはICHガイドラインの改訂や治験手法の高度化があり、日本も国際調和と信頼性確保を両立する形で規制アップデートを図っています。
創薬エコシステム構築支援と治験効率化
厚生労働省とPMDAは、治験環境の整備にも注力しています。4月10日には「令和7年度治験エコシステム導入推進事業」に関するオンライン説明会が開催され、医療機関や企業向けに同事業への参加募集要項が説明されました。
この事業は前年(令和6年度)に引き続き実施されるもので、産学官の連携により治験手法の革新や環境整備を支援する取り組みです。例えば、治験効率化のためのデジタル技術導入や、治験実施医療機関のネットワーク強化などが支援対象となります。
背景には、新薬開発の国際競争が激化する中で日本発の臨床試験を活性化しようという政策目標があります。
新薬の承認・上市動向
承認審査の面では、今週も新薬の市場投入に向けた動きが見られました。4月16日付で2つの新薬が薬価収載(保険償還価格の収載)されており、実質的に販売開始の段階に入りました。
- ヤンセンファーマの抗体薬「イムデトラ」(一般名タルラタマブ)で、小細胞肺がんを対象とした新規の二重特異性抗体治療薬です。
- 遺伝性血管性浮腫(HAE)治療薬の「アナエブリ」(ガラダシマブ)で、こちらも新機序の抗体薬として承認された製品です。
背景には、近年のがん免疫療法や希少疾患治療薬の開発成功が相次いでいることがあり、国内でも欧米に遅れずこれら最先端の薬剤が承認・保険適用される流れが加速しています。
日本における新薬承認件数推移(2020-2025)
グローバルCRO動向(米国・欧州・中国など)
世界規模では、CRO業界の拡大と地政学的リスクの両面でニュースがありました。米欧市場の成長や中国CRO企業の台頭など、各地域で特徴的な動きが見られています。
市場拡大と投資の活発化(米国・欧州)
グローバルには治験のアウトソーシング需要が高まり続けており、市場は年平均8%超で成長する見通しです。慢性疾患の増加や臨床試験件数の世界的な増加に伴い、専門性の高いCROサービスへの需要が急増しています。
製薬・バイオ企業がコスト効率や専門知識を求めて開発業務を外部委託する傾向が強まっており、CRO各社は治験計画立案からデータ管理、規制対応まで包括的なサービス提供能力を拡充しています。
米国では前述のようにプライベートエクイティによる大型買収(例:CenExel買収)が起き、欧州でも企業買収によるサービス拡大(例:VivaCell買収)が進行中です。
中国CROの台頭と規制リスク
中国発のCRO企業もグローバル展開を強めており、その動向が注目されています。大手のWuXi AppTecやWuXi Biologicsなどは海外でも受託業務を拡大し、2024年には好業績を記録するなど引き続き成長基調です。
特にWuXi Biologicsは2024年の実績を踏まえ2025年も受託案件の増加に自信を示しており、中国の豊富な人材・設備を強みに世界の創薬ニーズを取り込んでいます。
しかしながら、地政学的リスクも浮上しています。米国では国家安全保障上の懸念から、2025年進行中のBiosecure Act(バイオセキュア法)により米国企業が特定の中国企業(WuXi AppTecや関連企業など5社)と取引することを禁止する法案が検討されており、今後成立すれば米中間の創薬協力に大きな影響を及ぼしかねません。